アサヒビール大山崎山荘美術館

2022年10月14日(金)

最後にこの美術館を訪れたのは、東京に転勤になる前だから、何年ぶりになるだろう。

天下分け目の地・天王山の麓にある大山崎山荘は、大正から昭和初期にかけて、ニッカウヰスキーの創業にも参画した実業家・加賀正太郎の別荘だった場所です。

妙喜庵

最寄り駅のJR山崎駅の前にある妙喜庵。

ここには千利休が建てた二畳の茶室「待庵」(国宝)があります。

山崎の合戦のあと、天王山に城を築いた秀吉は、利休を招いて城下にこの茶室を作らせたといいます。その後、待庵は妙喜庵に移築されました。
(待庵の見学には1か月前から申し込みが必要らしいので、この日は通り過ぎただけでした。)






トンネル門

妙喜庵をあとにして、木々の生い茂る急な坂道を登っていくと、見えてきました!

大山崎山荘美術館に通じるトンネル「琅玕洞(ロウカンドウ)」です。

加賀正太郎がみずから設計したこの山荘は、1912年に着工してから20年の歳月をかけて築造されたそうです。

自然石を積み上げた野面積みの石垣や、トンネル内壁に施された煉瓦の装飾など、製作者のこだわりが随所に感じられます。

ちなみにトンネル名の「琅玕」とは、翡翠など青碧色の宝石のことを指すそうです。「青の洞窟」のようなイメージでしょうか。





大山崎山荘

トンネルを抜けて、レストハウスのロッカーに荷物を預けて、さらに進むと特徴的な建物が出迎えてくれます。

英国チューダーゴシック様式の山荘にはシックな品格があり、山小屋風のテイストが木々の緑に映え、奥棟の赤い屋根がアクセントになっています。

昔の実業家って、商才だけでなく審美眼にも優れていて、美的センスの高い人が多かったんですね。
(文化に造詣が深くなければ、政財界のサロンに入れないというのもあったのかもしれません。)

こんなに素敵な建物を、誰もが美術館として楽しめるよう大切に管理・保存してくださっていることに感謝!







玄関前の石像

エントランス前には可愛らしい1対の石像。

この美術館の収蔵品の大半はアサヒビール初代社長・山本為三郎のコレクションなのですが、これもその一部でしょうか。






1階バルコニーから眺めた庭園

館内は撮影禁止なので、バルコニーから見たお庭しかご紹介できませんが。。。

上の画像は1階バルコニーからの眺め。かつては池の飛び石を渡って茶室「彩月庵」へ行くことができたそうです。


館内で特に見事だったのが、暖炉に使われた装飾。中国後漢時代の墳墓の壁面装飾に用いられた「画像石」という石板が転用されていました。

後漢の高級官僚が乗る馬車や鳥や龍のレリーフが施された「画像石」が、重厚なマントルピースに溶け込んでいて、この組み合わせを思いついた作者の創造性に脱帽です。




さて、今回の企画展「こわくて、たのしいスイスの絵本」では、ハンス・フィッシャー、フェリックス・ホフマン、エルンスト・クライドルフという3人のスイス人画家の絵本原画が展示されていました。

それほど期待してなかったのですが、意外と魅力的な絵が多くて楽しめました。フェリックス・ホフマンは、トーマス・マンの『魔の山』の挿絵を手掛けた人でもあるのですね。

3人のなかでとりわけ気に入ったのが、ハンス・フィッシャーの作品です。

『こねこのぴっち』をはじめ、↓のような絵本がフィッシャーの作品なんですが、自由奔放に見えながらも、的確な筆遣いと明るくみずみずしい色使いで動物たちを生き生きとえがいていて、観ていると絵の世界に引き込まれていきます。

ミュージアムショップでもフィッシャーの絵本が販売されていたのですが、やはり原画と印刷された絵とではぜんぜん違います。原画には躍動感というか、生命そのものが脈動していて、エネルギーに満ちていました。





ケーキセット

安藤忠雄が手掛けた「地中の宝石箱」でモネの《睡蓮》を鑑賞したあとは、2階喫茶室のテラスへ。


この日のケーキは、企画展に合わせてリーガロイヤル京都が創作したスイス・エンガディン地方の伝統菓子「エンガディナー」。

キャラメル味のヌガーを絡ませ、クッキー生地で包んで焼き上げたケーキです。ドライクランベリーがトッピングされ、ナッツ類がたっぷり入っていて、秋にピッタリの香ばしいお菓子でした。

ほかにも「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家をイメージした可愛らしい山小屋風ケーキもありましたよ。





テラスからの眺め

展望喫茶室からは、桂川宇治川、木津川の流れや、石清水八幡宮のある男山が一望できます。

空気も眺めも、気持ちいい~。

こんな素敵な場所で過ごす別荘暮らし、最高ですね。





〈地中の宝石箱〉への通路

お茶のあとは庭園を散策。






睡蓮の庭

モネの《睡蓮》を模した「睡蓮の庭」。






太鼓橋

モネの太鼓橋は木橋だけど、こちらは石橋。








バリー・フラナガン《ボールをつかむ鉤爪の上の野兎》

コレクションが無造作に展示されています。

ロバっぽい顔のアンニュイなウサギさん。






和風テイスト

英国風のデザインのなかに和の趣き。





水の流れ

南禅寺界隈別荘もそうだけど、この時代の別荘建築には「水の流れ」が多用されていて、目で楽しむだけでなく、五感で四季の移ろいを楽しめるよう設計されています。







水の流れ

水の流れる音は、静寂以上の静寂を感じさせます。


同行した実家の母も喜んでくれたみたいで、よかった~😊