2022年10月19日(水)
平安京の四神相応の玄武(北の方角を司る霊獣)が宿る船岡山。その聖なる山に、織田信長を祀る建勲神社が鎮座します。
この日は、信長が入洛した日を記念する船岡大祭が行われ、3年ぶりに火縄銃演武の奉納もあると聞いて行ってきました。
船岡山の南麓にある大鳥居は、台湾阿里山産の檜でつくった素木のままのもの。
笠木が太刀ように大きく反り、素木ならではの経年の味わいがあって、武将を祀る神社にふさわしい豪放な鳥居です。
階段を100段ほど上がっていくと、素晴らしい眺望が目に飛び込んできます。
船岡山は平安京の北の基点で、ここから南に大極殿が建ち、羅生門まで朱雀大路が一直線に延びていました。
本殿前の拝殿。ここで仕舞や舞楽などが奉納されます。
一間社流造の本殿。建勲神社は、国家安泰・万民安堵の神さまです。
有事が迫っている今だからこそ、「日ノ本」をまとめて富国強兵を推し進め、外敵を寄せ付けなかった信長の才智と胆力にあやかりたいものです。
雅楽が奏されるなか、神事が始まりました。
笙や篳篥、太鼓が奏でる古式ゆかしき音色を聴いていると、穏やかで厳かな気持ちになります。
お神酒や山海の珍味などさまざまな神饌が次々と奉納されます。
祝詞奏上のあと、私も含めて参列者がお祓いをしていただいたのですが、神職が大麻を振るたびに、低頭した頭の先にビリビリと微弱電流が流れるような感覚がして、強力なお祓いのパワーを感じました。
金剛流の仕舞《敦盛》と《小鍛冶》の奉納。
「人間五十年 下天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり ひとたび生(しょう)を得て 滅せぬもののあるべきか」
信長が桶狭間の出陣の際に舞い、本能寺の変でも舞ったともいわれる幸若舞《敦盛》。
その幸若舞を能の仕舞として奉納したのがこの日の仕舞《敦盛》でした。
まだ7月8日の衝撃から立ち直れない私には、織田信長と安倍晋三総理の非業の最期がどうしても重なって見えてしまいます。
二人の大きな違いは、信長には秀吉という偉大な後継者がいたけれど、安倍さんにはいないということ。
日本にとってあまりにも大きな喪失です。悲しくて、無念でなりません。。。
つづいて舞楽《陵王》の奉納です。
《陵王》は古代中国の伝説にちなんだ舞楽です。その伝説とは「北斉の蘭陵王・高長恭は勇猛な武将だったが、そのあまりの美貌に兵士たちが見惚れてしまい士気が上がらないため、陵王は獰猛な仮面をかぶって出陣し、大勝利を収めた」というもの。武将神への奉納にふさわしい舞ですね。
明治天皇の御下命によって創建された神社なので、拝殿の外側には菊紋の神社幕が、内側には織田木瓜の水引幕が張られています。
ちょっと見えにくいですが、拝殿の内側には、信長公三十六功臣の額も飾られています。
素敵な舞でした。舞楽はどことなく太極拳に似ていて、舞の動きによって気の流れを作っているように見えます。
皇居や国立能楽堂などで舞楽公演を観てきましたが、やはり神事としての奉納舞は格別で、日本の芸能の根本は「神に観ていただき、神に楽しんでいただく」という気持ちが根底にあって成り立つものだと思いました。
演者と観者とのあいだに神の介在する芸能は観ていて気持ちよく、清々しい。
神事を終えたあとは火縄銃の演武。
火縄銃の射撃って映画や大河ドラマでしか観たことがなく、実際に間近で観るのは初めて。
鎧兜も忠実に再現されていて、銃器の使用を特別に許可された信長鉄砲隊の方々らしいです。
鉄砲隊が撃った瞬間、こちらの心臓と背骨にもド~ンッと響くような凄い衝撃が走ります。
音も凄いけど、空気の振動が身体にガツンと伝わってきます。落雷のような感じ。
火縄銃から大きな火花が散るので、撃ち手も目を閉じてしまっています。
実際に命中させるのって大変だったんじゃないかな。。。
「人間五十年」の碑。
ほんとうに、人の世は短く、儚い。
末社の義照稲荷神社。御祭神は宇迦御霊退陣、国床立大神、猿田彦大神。
宇迦御霊(ウカノミタマ)大神の「宇迦」は「ウケ」(食物)の古形で、とくに稲霊を指すことから、宇迦御霊大神とは「稲に宿る神秘の霊」という意味のようです。
国床立大神(国之常立神)は、古事記で神世七代の最初の神とされる根源神。伊勢神道・吉田神道および大本教などの新宗教では重要視されている神さまです。
建勲神社のサイトによると、奈良時代の昔、船岡山を中心として秦氏により五穀豊穣・織物工芸の稲荷信仰が広められ、現在の義照稲荷神社の発祥につながったそうです。
伏見稲荷大社の元宮で、伏見稲荷の命婦社には、船岡山の霊狐が祀られているとのこと。
建勲神社旧本殿跡。
現在は船岡山山頂に鎮座する建勲神社ですが、かつては山の中腹に建っていたようです。
船岡山の南麓には、有名な船岡温泉があります。
1923年(大正12年)に料理旅館として建築された船岡温泉は、昭和8年に特殊舟岡温泉と改称され、現在は公衆浴場として営業しているようです。
写真で見ると、内部はまさに「千と千尋の神隠し」のような欄間彫刻・格天井の彫刻やマジョルカタイルが残る大正・昭和レトロな空間で、素敵な雰囲気。
とはいえ、外から見た感じでは、人の出入りはなく、営業している気配もなかったのですが……休業中なのかな?
船岡温泉から徒歩3分ほどのところにある「さらさ西陣」。
築80年の銭湯をリノベーションした有名カフェです。残念ながらこの日は定休日だったので、外から拝見。
色鮮やかな和製マジョリカタイル。
今では出せない色合いと質感、当時のまま大切に使われています。
玄関の唐破風、見事な懸魚彫刻、二階の高欄。映画に出てきそうな遊郭建築ですね。