2023年9月29日(金)
仲秋の名月の夕べ、尼崎城野外能舞台で開かれた薪能に行ってきました。
尼崎の港町だった大物浦は、源頼朝から追われる身となった義経が静御前と別れて西国へ船出をした『平家物語』ゆかりの地とされています。
尼崎薪能は、静御前との別れを描いた能《船弁慶》にちなんで昭和55年から開催され、今年で44回目だそうです。
普段は大物川緑地公園で催されるそうですが、今年は4年ぶりに尼崎城の野外能舞台での開催。
しかもこの日は満月の「仲秋の名月」ということで、「名月」と「お城」と「薪能」が同時に鑑賞できる、最高のシチュエーションでした!
薪能のプログラムは以下の通りです。
【プログラム】
尼崎こども能楽教室 仕舞
仕舞《邯鄲》 梅若堯之
仕舞《井筒》 赤井きよ子
仕舞《鐘之段》山村啓雄
仕舞《融》 梅若基徳
火入れ式
能《船弁慶 前後之替》 シテ梅若猶義
子方 南潤之介 ワキ 福王知登 喜多雅人 アイ 善竹忠亮
笛 赤井啓三 小鼓 荒木建作 大鼓 守家由訓 太鼓 上田慎也
地謡 吉井基晴 吉浪壽晃 梅若堯之
笠田祐樹 上田顕崇 梅若雄一郎
後見 梅若基徳 大西礼久
野外能舞台は、写真のように尼崎城の濠に舞台を架けるかたちで設営されています。
(スタッフの方に確認したところ、プロの演能は撮影不可ですが、こども能楽教室の発表会は撮影OKとのことだったので、写真はこども教室の仕舞の様子です。)
お城をバックにした特設能舞台は絵になりますね。
尼崎城は、旧ミドリ電化の創業者が「創業の地に恩返しがしたい」と私財を投じて尼崎城天守主を建設して尼崎市に寄贈し、市民からも寄付がよせられて完成したという、人々の地元愛がギュッと詰まったお城です。
「前後之替」という小書つきなので、前場の中ノ舞の途中でシテの静御前が橋がかりに行き、一の松でシオル型があります。
梅若猶義さんの静は一の松で子方の義経に背を向けて身をかがめ、込み上げる万感の思いをグッと抑えるように顔前に手を当てる所作をするのですが、これがとても印象深くて素敵でした。
今生の別れとなることをどこかで予感するかのような静の面差しとシオリの手の表情から、彼女の健気で一途な恋心が伝わってきます。
中ノ舞を舞い終えたとき、被っていた烏帽子を置手紙のようにぽとりと落とし、涙を流す━━ここのシオリにもしっとりとした余韻がありました。
それから、船頭役のアイの善竹忠亮さんの櫂さばきも見事でした。
腰に力を入れて、全身でこぐ仕草からは、水の抵抗や波の荒さが伝わってきて、臨場感満点!
お囃子(とくに大小鼓)の呼吸が合わず、少しちぐはぐだったのは残念でしたが、地謡が底堅く下支えして、全体的に良い舞台でした。
演者&関係者&スタッフの方々、ありがとうございました。