春宵一刻値千金~東寺の不二桜ライトアップ

2023年3月29日(水)

今年は桜の開花が早く、あっという間に散ってしまいそうなので、ふと思い立って夜の東寺を訪れた。

妖艶な不二桜と五重塔

東寺の池泉回遊式庭園で、ひときわ目を引く樹齢120年の枝垂れ桜。
空海の「不二の教え」から名付けられた「不二桜」がきらびやかに咲き誇っていた。

桜の木の下には死体が埋まっているとか、満開の桜は狂気を誘うなどと言われるけれど、不二桜の臈たけた姿を見ていると、心を酔わせるような妖気を感じてしまう。

樹齢を重ねた桜には、背筋がゾクッとするような鬼気迫る美しさがある。




水面に映る五重塔

庭園の池の水鏡に映る五重塔と桜。宝石箱のような異空間。

この日は外国人観光客も多く、皆さんハイテンションで写真を撮っていらっしゃった。

日本の良い思い出になりますように。





不二桜の下で篠笛演奏

不二桜の下では思いがけず、佐藤和哉さんの篠笛の演奏に遭遇。

和哉さんの篠笛は何年か前に新宿伊勢丹のイベントで聴いて以来だから、ほんとうに久しぶり。
嬉しいサプライスだった。



不二桜の下で篠笛演奏

着物風の白衣に横笛を吹く姿が枝垂れ桜の背景に溶け込んで、絵になりますね。




夜間特別拝観なので、金堂(国宝)と講堂(重文)にも入ってみた。

大迫力の五重塔

高さ54.6mの現在の五重塔は1664年に建造されたもの。

近くで見ると、層ごとに軸部、組み物、軒の組み上げを積み重ねた精緻なデザインを堪能できる。

心柱を大日如来に見立て、初層内部には須弥壇を設けて、阿閦如来宝生如来阿弥陀如来不空成就如来金剛界四仏と八大菩薩を安置している。





金堂(国宝)

東寺は823年に空海に下賜されるが、金堂(本堂)はそれ以前には既に建立されていた。

現在の金堂は豊臣秀頼が1603年に再建したもの。


本尊の薬師如来像(上の写真の扉の奥からのぞいている)と脇侍の日光月光菩薩も金堂と同時期の1603年頃に再制作されたという。

一般的な薬師如来はそのシンボルとして薬壺を持っているが、薬師寺金堂のような古い時代の薬師如来像は薬壺を持たないものもある。東寺の薬師如来も薬壺を持たないことから、薬師如来の古い様式を踏襲しているとされる。




金堂の建築美

入母屋造本瓦葺きの金堂は、外観からは二重に見えるが、実は一重裳階付き。

建築様式は和様と大仏様の折衷様式になっており、シンプルにして優美なデザインが桜に映える。





金堂越しに見る桜に埋もれた五重塔

どこから見ても美しく、まさに春宵一刻値千金、かけがえのない春の夜の一瞬一瞬を目に焼き付けておきたい。





講堂(重文)

密教の宇宙観を体現した立体曼陀羅を創造するべく空海が建立した講堂。

基壇中央には、大日如来を中心とする五智如来(五仏)、右に金剛波羅蜜菩薩を中心とする五菩薩、左に不動明王を中心とする五大明王が配置され、東西は梵天帝釈天が、基壇の四隅は四天王が守護している。


五智如来像〉(重文)
中央に君臨する大日如来像は1497年の作だが、空海ゆかりの観心寺如意輪観音に見られるような、平安初期密教像独特のエキゾチックな面立ちをしている。
その他4躯の如来像は江戸時代のものだが、阿弥陀如来だけは平安時代の古像の頭部が流用され、江戸期の胴体と違和感なく溶け込んでいるのが見事だった。

〈五菩薩像〉(国宝)
中央の金剛波羅蜜菩薩は江戸期の作だが、他の4躯は当初のもの。
江戸期の金ぴかで整い過ぎた顔立ちの金剛波羅蜜菩薩に比べると、平安期の4躯には初期密教仏らしい肉感的なしめりけがあり、そこに経年による剥落した味わいが加わっている。

五大明王像〉(国宝)
東寺御影堂の不動明王とともに、明王像としては日本最古の作例とされる。多種多様な持物をもち、動物にまたがり、人を踏みつける異形の姿は当時としてはさぞかし衝撃的で斬新だったのだろう。

梵天帝釈天〉(国宝)
両像とも基本的には平安初期のものが残されているが、堂内でひときわ秀麗でハンサムな帝釈天の頭部や手足の一部は後補となっている。
オリジナルの帝釈天は、対になっている梵天のようなインド風で密教的な顔立ちをしていたのかもしれない。

〈四天王〉(国宝)
無骨ながらも量感あふれる平安初期らしい四天王像。大きな目を剥きだした迫力は圧巻。教王護国寺の名にふさわしく、東寺だけでなく王城そのものを守護する四天王の造形だ。





不二桜と五重塔

金堂と講堂を出たあとも立ち去りがたくて、しばし境内を散策。




境内は大勢の人でにぎわっていたが、みんな幸せそうな顔をしていた。

夢のような時間と空間だった。

水面に映る五重塔